命を守る「水」を供給する使命
2018年北海道胆振東部地震の対応 ~「水」の24時間生産体制の立ち上げ
2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震。北海道全域が停電になり、一部断水になる地域もある等、多くの人が被害に見舞われた。当時、北海道に住んでいた人なら忘れることができない災害だ。セコマグループは北海道の食のインフラとして地域に根差すことを理念としている。人々の生活に欠かせないものの一つが「水」だ。ミネラルウォーターを製造する北海道ミネラルウォーター(株)は、北海道胆振東部地震の際、いち早く工場を復旧させ水を24時間体制で1週間生産し続けた。当時の様子について、北海道ミネラルウォーター 代表取締役社長の石丸さんに話を伺った。
北海道ミネラルウォーター(株) 代表取締役社長
1989年(株)セイコーマート(現、セコマ)へ入社。
商品部、グループ会社の卸部門(セイコーフレッシュフーズ)や惣菜工場(北燦食品)等広く商品に携わってきた。
店舗運営管理・運営指導部門を経験し、グループ会社である北燦食品、オリタ物流の役員を経て、2014年に現在の北海道ミネラルウォーター(株)の代表取締役社長に就任。
北海道の食のインフラとしての使命感
2018年9月6日午前3時8分、地震が発生。工場のある京極町で停電が発生したのは午前3時31分からでした。
地震発生時(京極町は震度3)、自宅でTVを付けると地震速報が流れ始め、そうこうしているうち停電が始まってしまいました。
京極町周辺の羊蹄山麓は、地震の他にも荒天候や自然小動物の影響等でかねてより停電の多い地区でした。しかし30分経過しても灯りがつかず、各社員自宅にいながらいつもと違うことに気付き始めました。
管理職同士が携帯電話で連絡を取り合いながら社員全員の安全確認をし、地震発生から約2時間後の朝6時頃には工場に集合しました。自主的に早朝から出勤してくれた社員もいました。
工場に着くと、停電により正面玄関のセキュリティ―ロックが解除できず中に入れない状態でした。裏手の出荷事務所からセキュリティーロックを解除しないまま鍵を開けると工場全体に警報ベルが鳴り響きました。事務所に集まりベルの騒音のなか「冷静に、冷静に、」と声を掛けながら打合せを開始。
ラジオの情報から、全道的な停電であることが解りました。過去の震災経験(※1)から「水」が必要になってくることは皆把握しています。一方でこの段階で電力がないということは生産不能の状態です。
この時点で停電から3時間ほど経過。その時我々に出来ることは『通電後、すぐ「水」の生産を開始すること』、そしてその準備に万全を期すこと。ここから手分けして通電後の生産開始に向けた様々な準備を同時進行して開始します。
※1
2011年3月の東日本大震災の際、当社は約一か月間「氷」の生産を止め、連日「水」を生産し続け北海道から被災地へ供給しました。
2011年3月の東日本大震災の際、当社は約一か月間「氷」の生産を止め、連日「水」を生産し続け北海道から被災地へ供給しました。
非常時の中、「水」生産再開に向けて状況把握
まずは手分けして全従業員へ連絡。指示があるまで自宅待機とします。
グループの物流センターであるセイコーフレッシュフーズ札幌配送センターの状況を確認。「水」を保管してある自動倉庫が崩れている、備蓄拠点となっている石狩倉庫もオートラックが動かず出荷不能。事務所内では停電によりPCが使えない状態であり、ペーパーで出力している日報等からその時点での在庫状況を確認します。
当日、自社倉庫内には偶然3,000ケース程(トレーラー車両2台分)の「水」の在庫があり物流センターと打合せ、当日中に全量出荷する手配を行います。停電発生当日は終日灯りがない状態だったので安全に留意し、倉庫内を懐中電灯等で照らしながら慎重に出荷しました。
生産再開時の為のPETボトル、キャップ、ダンボール等の資材在庫の確認。工場内在庫を確認、そして業者担当者と何とか携帯電話で連絡を取り先方にある資材在庫、更に工場の被害状況、物流状況を把握します。PETボトルの生産工場は北広島、ダンボールの工場は千歳にあり供給能力の確認が重要でした。
ボイラーの燃料の確認。水の殺菌工程はボイラーで蒸気熱を発生させ高温殺菌します。そのため、ボイラーを稼働するための燃料確保が不可欠です。当社には廃油ボイラー(※2)と重油ボイラーが1台ずつありメインで稼働していたのは廃油ボイラー。廃油の供給元はグループ会社農業生産法人の北栄ファーム(長沼)でしたが、畑のビニールハウスが倒壊する等で復旧作業に追われており、また現地の停電が継続している間は廃油の精製ができなくなり供給不能です。
一方重油の供給先は地元の企業でしたが、状況を説明し毎日給油できるよう準備を依頼します。念のため普段取引のない地元の燃料屋さんがもう1件あり、状況を説明し万が一の場合は燃料供給を受けられるようにお願いし了解を得ました。
これらの事項をホワイトボードに記載し、経過を情報共有しながら準備を進めます。
※2
廃油ボイラーとは…店舗のホットシェフ厨房やセコマグループの食品製造工場から出た使用済みの食油等、セコマグループで不要となった油を燃料として再利用する仕組みのボイラーです。
廃油ボイラーとは…店舗のホットシェフ厨房やセコマグループの食品製造工場から出た使用済みの食油等、セコマグループで不要となった油を燃料として再利用する仕組みのボイラーです。
24時間生産に向けて
そして「水」の24時間生産体制を準備します。
通常時「水」の生産は6時〜21時迄の15時間稼働を2交代で行います。従業員は6時早番、9時中番、12時遅番に分け8時間×3交代制で出勤。他の「かちわり氷」等と同時生産しながら行います。
今回は「水」の生産に集中。1日に8時間×3交代の24時間稼働の出勤シフトを準備します。
7名いれば水の生産ラインは動きます。7名×3交代、のべ21名の人員が必要になりますが、同時に7種類のオペレーション可能な従業員が各3名ずつ必要にもなってきます。
ちょうど多工能化といって1つのオペレーションに対し何人もの従業員が作業可能となる取組みを促進している最中でした。またその時は入社3~4年目の若手社員やその年4月入社した新入社員達が「水」ラインの各セクションでオペレーション習得の真最中でした。
3交代の各時間帯にある程度オールラウウンダーなベテラン社員を配置し、オペレーション習得途中の若手社員を補助しながら、そしてこの場で仕上げていくという考え方でシフト配置を準備しました。
パートさんへは電話連絡し深夜帯を含め出勤可能時間を確認しシフト配置。パートさんも一大事であることは理解しており、家庭がありながらも非常に協力的だった方もおり助かりました。
そしてベテラン社員達は過去に「水」の24時間生産の経験がありました。
前述した2011年3月の東日本大震災の時の経験です。そのため落ち着いて24時間生産に備えることができました。
13時、改めて中堅社員以上を事務所に集めてミーテイング。各項の経過について情報共有し、通電再開後の動きについて確認しました。自宅待機していた他社員についても電話連絡し24h×3交代のシフト配置について説明。通電後の連絡体制を準備しました。
通電再開~24時間生産始動
翌9月7日午前2時31分、京極町で通電再開。
2時50分に前日打ち合わせた通り第1陣5名が出勤。
出勤後一方で停電直後から「締切り」とし、氷・カキ氷等を保管していた製品冷凍庫等の温度確認。停電後約24時間経過していましたが各冷凍庫は-20℃前後を保持しており問題なし。
そして「水」生産に関わる機械設備の点検。まず取水元である京極町ふきだし公園内の湧水口ポンプ確認、そして工場内の機械設備の点検、全て異常なし。
4時、第2陣が出勤。ボイラー立上げ、水の殺菌機立上げ、異常なし。
5時、3交代制のうち24時~8時シフトで配置していた7名が出勤。ミーテイング実施後、生産開始準備を行い、6時30分に24時間生産を開始しました。
全社員が協力し、通常の3倍量を供給
ちょうどこの頃は当社が高校生新卒採用を開始して4年目の時期でした。
入社4年目社員が3名、中途入社の3年目社員が1名、入社1年目の新入社員が2名。彼ら若手社員達は「24時間」フル稼働はもちろん初めての経験でしたが大きなトラブルなく稼働しました。
ベテラン社員達の落ち着きが若手社員達にも程よい緊張感をもたらし、社員全員が協力して乗り越えることができました。
24時間生産中は、途中グループ物流センターの復旧状況、セイコーマート店舗の復旧、販売状況等の情報を得ながら日々の生産量を設定し、9月13日まで1週間継続しています。
この1週間の「水」の生産量は500ml、2.0L合わせ27,656ケース(385,876本)。通常時通の約3倍の量を生産しました。
グループ物流センター倉庫の復旧とともに当初から準備していた備蓄在庫が流通し始め、また全道の水道インフラが正常化してくる等の状況をみて生産を通常に戻しました。
命を守る「水」を常に供給することが当社の使命
日常「水」で商売をしている当社にとって、災害発生時、被災地に「水」を供給することは使命であると日頃から考えています。
一方で災害発生時に常に「水」が必要になってくるとは限りません。しかし何が起こるか解らないのが災害時であり、そして「水」は命を守る製品でもあります。
当社は、そのいつ起こるか解らない万が一の事態に備え、常に我々が出来る「水」の最大供給体制に速やか移行できること、それが「水」の生産メーカーである我々にとっての使命だと考えています。
■北海道ミネラルウォーター(株)について
北海道ミネラルウォーター(株)は、京極町に噴き出る「羊蹄の噴き出し湧水」を原料としミネラルウォーター、氷、コーヒー等の製造を行っています。
1985年環境省より「名水百選」に認定されたこの水は、硬度23度の軟水で非常にやわらかくやさしい味わいで、かちわり氷やコーヒー等で使用すると素材の味を素直に引き出すのが特長です。